『二宮翁夜話』第1巻 第13章
翁曰はく世の中に事なしといへども…
原文
翁曰はく、「世の中に事なしといへども、変なき事あたはず。是れ恐るべきの第一なり。変ありといへども、是を補ふの道あれば、変なきがごとし。変ありて是を補ふ事あたはざれば、大変に至る。
古語に、『三年の貯蓄なければ国にあらず[1]』と云へり。兵隊ありといへども、武具、軍用、備はらざればすべきやうなし。只国のみにあらず。家も又然り。夫れ万の事、有余無ければ、必ず差し支へ出来て、家を保つ事能はず。然るを、いはんや、国天下をや。
人は云ふ。我が教へ、倹約を専らにすと。倹約を専らとするにあらず。変に備へんが為なり。人は云ふ。我が道、積財を勤むと。積財を勤むるにあらず。世を救ひ、世を開かんが為なり。
古語に、『飲食を薄うして孝を鬼神に致し、衣服を悪しうして美を黻冕に致し、宮室を卑うして力を溝洫に尽くす[2]』と。能く能く此の理を玩味せば、吝か倹か弁を待たずして明らかなるべし。」
古語に、『三年の貯蓄なければ国にあらず[1]』と云へり。兵隊ありといへども、武具、軍用、備はらざればすべきやうなし。只国のみにあらず。家も又然り。夫れ万の事、有余無ければ、必ず差し支へ出来て、家を保つ事能はず。然るを、いはんや、国天下をや。
人は云ふ。我が教へ、倹約を専らにすと。倹約を専らとするにあらず。変に備へんが為なり。人は云ふ。我が道、積財を勤むと。積財を勤むるにあらず。世を救ひ、世を開かんが為なり。
古語に、『飲食を薄うして孝を鬼神に致し、衣服を悪しうして美を黻冕に致し、宮室を卑うして力を溝洫に尽くす[2]』と。能く能く此の理を玩味せば、吝か倹か弁を待たずして明らかなるべし。」
[1]
『礼記』王制篇の「無三年之蓄、曰国非其国也」を踏まえた表現。
[2]
『論語』泰伯篇の「菲飲食、而致孝乎鬼神、悪衣服、而致美乎黻冕、卑宮室、而尽力乎溝洫」を踏まえた表現。
『二宮尊徳全集』第36巻を底本とした。ただし、次の方針に基づき、本サイトの管理人が独自に修訂を施してある。◆漢文以外は、すべて横書きに改めた。◆旧字体は、新字体に改めた。◆仮名遣いは原則として旧仮名遣いのままとしたが、現代的な文語文法に基づき、適宜修正した。(例:飢へ→飢ゑ、全ふ→全う)◆送り仮名、句読点、括弧、改行は、現代的な感覚に即して大幅に改めた。(例:譬ば→譬へば、曰……→曰はく、「……。」) ◆振り仮名は、推測に基づき、適宜施した。◆助動詞および助詞は、仮名に開いた。(例:也→なり、如し→ごとし)◆「ゝ」や「〱」は原則として元の仮名に戻し、「〻」は削った。◆漢文には適宜訓点を補った。
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