『二宮翁夜話』第1巻 第24章
翁曰はく農にても商にても…
原文
翁曰はく、「農にても、商にても、富家の子弟は、業として勤むべき事なし。貧家の者は、活計の為に勤めざるを得ず。且つ富を願ふが故に自ら勉強す。富家の子弟は、譬へば山の絶頂に居るがごとく、登るべき処なく、前後左右、皆眼下なり。是に依りて、分外の願ひを起こし、士の真似をし、大名の真似をし、増長に増長して、終に滅亡す。天下の富者、皆然り。爰に長く富貴を維持し、富貴を保つべきは、只、我が道、推譲の教へあるのみ。富家の子弟、此の推譲の道を蹈まざれば、千百万の金ありといへども、馬糞茸と何ぞ異ならん。夫れ馬糞茸は季候に依りて生じ、幾ほどもなく腐敗し、世上の用にならず。只徒らに生じて徒らに滅するのみ。世に富家と呼ばるる者にして、如斯なる、豈に惜しき事ならずや。」
『二宮尊徳全集』第36巻を底本とした。ただし、次の方針に基づき、本サイトの管理人が独自に修訂を施してある。◆漢文以外は、すべて横書きに改めた。◆旧字体は、新字体に改めた。◆仮名遣いは原則として旧仮名遣いのままとしたが、現代的な文語文法に基づき、適宜修正した。(例:飢へ→飢ゑ、全ふ→全う)◆送り仮名、句読点、括弧、改行は、現代的な感覚に即して大幅に改めた。(例:譬ば→譬へば、曰……→曰はく、「……。」) ◆振り仮名は、推測に基づき、適宜施した。◆助動詞および助詞は、仮名に開いた。(例:也→なり、如し→ごとし)◆「ゝ」や「〱」は原則として元の仮名に戻し、「〻」は削った。◆漢文には適宜訓点を補った。
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