『二宮翁夜話』第1巻 第29章
翁曰はく今日は則ち冬至なり…
原文
翁曰はく、「今日は則ち冬至なり。夜の長き、則ち天命なり。夜の長きを憂ひて短くせんと欲すとも、如何ともすべなし。是を天と云ふ。而して此の行灯の皿に油の一杯ある、是も又天命なり。此の一皿の油、此の夜の長きを照らすにたらず。是れ又、如何ともすべからず、共に天命なれども、人事を以て灯心を細くする時は、夜半にして消ゆべき灯も、暁に達すべし。是れ人事の尽くさざるべからざる所以なり。
譬へば伊勢詣でする者、東京より伊勢まで、まづ百里として路用、拾円なれば、上下廿日として、一日五十銭に当たる。是れ則ち天命なり。然るを一日に六十銭づつ遣ふ時は、二円の不足を生ず。是を四十銭づつ遣ふ時は、二円の有余を生ず。是れ人事を以て天命を伸縮すべき譬へなり。
夫れ此の世界は自転、運動の世界なれば、決して一所に止まらず。人事の勤惰に仍りて天命も伸縮すべし。たとへば、今朝焚くべき薪なきは是れ天命なれども、明朝取り来たれば則ちあり。今水桶に水の無きも、則ち差し当たりて天命なり。されども汲み来たれば則ちあり。百事、此の道理なり。」
譬へば伊勢詣でする者、東京より伊勢まで、まづ百里として路用、拾円なれば、上下廿日として、一日五十銭に当たる。是れ則ち天命なり。然るを一日に六十銭づつ遣ふ時は、二円の不足を生ず。是を四十銭づつ遣ふ時は、二円の有余を生ず。是れ人事を以て天命を伸縮すべき譬へなり。
夫れ此の世界は自転、運動の世界なれば、決して一所に止まらず。人事の勤惰に仍りて天命も伸縮すべし。たとへば、今朝焚くべき薪なきは是れ天命なれども、明朝取り来たれば則ちあり。今水桶に水の無きも、則ち差し当たりて天命なり。されども汲み来たれば則ちあり。百事、此の道理なり。」
『二宮尊徳全集』第36巻を底本とした。ただし、次の方針に基づき、本サイトの管理人が独自に修訂を施してある。◆漢文以外は、すべて横書きに改めた。◆旧字体は、新字体に改めた。◆仮名遣いは原則として旧仮名遣いのままとしたが、現代的な文語文法に基づき、適宜修正した。(例:飢へ→飢ゑ、全ふ→全う)◆送り仮名、句読点、括弧、改行は、現代的な感覚に即して大幅に改めた。(例:譬ば→譬へば、曰……→曰はく、「……。」) ◆振り仮名は、推測に基づき、適宜施した。◆助動詞および助詞は、仮名に開いた。(例:也→なり、如し→ごとし)◆「ゝ」や「〱」は原則として元の仮名に戻し、「〻」は削った。◆漢文には適宜訓点を補った。
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