『二宮翁夜話』第1巻 第30章
翁常陸国青木村のために…
原文
翁、常陸国青木村のために力を尽くされし事は、予が兄、大沢勇助が烏山藩の菅谷某と謀りて起草し、小田某に托し、漢文にせし青木村興復起事の通りなれば、今贅せず。扨、年を経て翁、其の近村、灰塚村の興復方法を扱はれし時、青木村、旧年の報恩の為にとて冥加人足と唱へ、毎戸一人づつ無賃にて勤む。
翁、是を検して後に曰はく、「今日来たり、勤むる処の人夫、過半、二、三男の輩にして、我、往年厚く撫育せし者にあらず。是れ表に報恩の道を飭る[1]といへども、内情如何を知るべからず。されば我、此の冥加人足を出だせしを悦ばず。」と。
青木村地頭の用人某、是を聞きて、「我、能く説諭せん。」と云ふ。
翁、是を止めて曰はく、「是れ道にあらず。縦令内情如何にありとも、彼、旧恩を報いん為とて、無賃にて数十人の人夫を出だせり。内情の如何を置きて称せずばあるべからず。且つ薄に応ずるには厚を以てすべし。是れ則ち道なり。」とて、人夫を招き、旧恩の冥加として遠路出で来たり、無賃にて我が業を助くる其の奇特を懇々賞し、且つ謝し、過分の賃金を投与して帰村を命ぜらる。一日を隔てて、村民、老若を分かたず、皆未明より出で来たりて終日休せずして働き、賃銭を辞して去る。翁、又、金若干を贈られたり。
翁、是を検して後に曰はく、「今日来たり、勤むる処の人夫、過半、二、三男の輩にして、我、往年厚く撫育せし者にあらず。是れ表に報恩の道を飭る[1]といへども、内情如何を知るべからず。されば我、此の冥加人足を出だせしを悦ばず。」と。
青木村地頭の用人某、是を聞きて、「我、能く説諭せん。」と云ふ。
翁、是を止めて曰はく、「是れ道にあらず。縦令内情如何にありとも、彼、旧恩を報いん為とて、無賃にて数十人の人夫を出だせり。内情の如何を置きて称せずばあるべからず。且つ薄に応ずるには厚を以てすべし。是れ則ち道なり。」とて、人夫を招き、旧恩の冥加として遠路出で来たり、無賃にて我が業を助くる其の奇特を懇々賞し、且つ謝し、過分の賃金を投与して帰村を命ぜらる。一日を隔てて、村民、老若を分かたず、皆未明より出で来たりて終日休せずして働き、賃銭を辞して去る。翁、又、金若干を贈られたり。
[1]
「飭」の字は原文まま。「飾」または「餝」の誤植か。
『二宮尊徳全集』第36巻を底本とした。ただし、次の方針に基づき、本サイトの管理人が独自に修訂を施してある。◆漢文以外は、すべて横書きに改めた。◆旧字体は、新字体に改めた。◆仮名遣いは原則として旧仮名遣いのままとしたが、現代的な文語文法に基づき、適宜修正した。(例:飢へ→飢ゑ、全ふ→全う)◆送り仮名、句読点、括弧、改行は、現代的な感覚に即して大幅に改めた。(例:譬ば→譬へば、曰……→曰はく、「……。」) ◆振り仮名は、推測に基づき、適宜施した。◆助動詞および助詞は、仮名に開いた。(例:也→なり、如し→ごとし)◆「ゝ」や「〱」は原則として元の仮名に戻し、「〻」は削った。◆漢文には適宜訓点を補った。
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