『二宮翁夜話』第1巻 第31章
翁曰はく一言を聞きても…
原文
翁曰はく、「一言を聞きても、人の勤惰は分かる者なり。『東京は水さへ銭が出る』と云ふは懶惰者なり。『水を売りても銭が取れる』といふは勉強人なり。夜は未だ九時なるに『十時だ』と云ふ者は寝たがる奴なり。『未だ九時前なり』と云ふは勉強心のある奴なり。すべての事、下に目を付け、下に比較する者は、必ず下り向きの懶惰者なり。たとへば、『碁を打ちて遊ぶは酒を飲むよりよろし。酒を呑むは博奕よりよろし』と云ふがごとし。上に目を付け、上に比較する者は、必ず上り向きなり。古語に『一言以て知とし、一言以て不知とす』とあり。うべなるかな。」
『二宮尊徳全集』第36巻を底本とした。ただし、次の方針に基づき、本サイトの管理人が独自に修訂を施してある。◆漢文以外は、すべて横書きに改めた。◆旧字体は、新字体に改めた。◆仮名遣いは原則として旧仮名遣いのままとしたが、現代的な文語文法に基づき、適宜修正した。(例:飢へ→飢ゑ、全ふ→全う)◆送り仮名、句読点、括弧、改行は、現代的な感覚に即して大幅に改めた。(例:譬ば→譬へば、曰……→曰はく、「……。」) ◆振り仮名は、推測に基づき、適宜施した。◆助動詞および助詞は、仮名に開いた。(例:也→なり、如し→ごとし)◆「ゝ」や「〱」は原則として元の仮名に戻し、「〻」は削った。◆漢文には適宜訓点を補った。
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