『二宮翁夜話』第1巻 第32章
翁曰はく聖人も聖人にならむとて…
原文
翁曰はく、「聖人も聖人にならむとて聖人になりたるにはあらず。日々夜々、天理に随ひ、人道を尽くして行ふを、他より称して聖人といひしなり。堯舜も一心不乱に親に仕へ、人を憐れみ、国の為に尽くせしのみ。然るを他より其の徳を称して聖人といへるなり。諺に『聖人聖人といふは誰が事と思ひしに、おらが隣の丘が事か[1]。』といへる事あり。誠にさる事なり。我、昔、鳩ヶ谷駅を過ぎし時、同駅にて不士講に名高き三志[2]と云ふ者あれば、尋ねしに、『三志』といひては誰もしるものなし。能く能く問ひ尋ねしかば、『夫は横町の手習ひ師匠の庄兵衛が事なるべし。』といひし事ありき。是におなじ。」
[1]
いわゆる「東家之丘」を踏まえた言葉。「丘」とは孔子の名。
[2]
小谷三志(1766 - 1841)のこと。
『二宮尊徳全集』第36巻を底本とした。ただし、次の方針に基づき、本サイトの管理人が独自に修訂を施してある。◆漢文以外は、すべて横書きに改めた。◆旧字体は、新字体に改めた。◆仮名遣いは原則として旧仮名遣いのままとしたが、現代的な文語文法に基づき、適宜修正した。(例:飢へ→飢ゑ、全ふ→全う)◆送り仮名、句読点、括弧、改行は、現代的な感覚に即して大幅に改めた。(例:譬ば→譬へば、曰……→曰はく、「……。」) ◆振り仮名は、推測に基づき、適宜施した。◆助動詞および助詞は、仮名に開いた。(例:也→なり、如し→ごとし)◆「ゝ」や「〱」は原則として元の仮名に戻し、「〻」は削った。◆漢文には適宜訓点を補った。
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