『二宮翁夜話』第1巻 第3章
翁曰はく夫れ人道は譬へば水車の…
原文
翁曰はく、「夫れ人道は、譬へば、水車のごとし。其の形、半分は水流に順ひ、半分は水流に逆らうて輪廻し、丸に水中に入れば廻らずして流るべし。又水を離るれば廻る事あるべからず。夫れ仏家に所謂知識のごとく、世を離れ、欲を捨てたるは、譬へば水車の水を離れたるがごとし。又、凡俗の、教義も聞かず、義務もしらず、私欲一偏に着するは、水車を丸に水中に沈めたるがごとし。共に社会の用をなさず。
故に人道は中庸を尊む。水車の中庸は、宜しきほどに水中に入りて、半分は水に順ひ、半分は流水に逆昇りて、運転滞らざるにあり。人の道もそのごとく、天理に順ひて種を蒔き、天理に逆らうて艸を取り、欲に随ひて家業を励み、欲を制して義務を思ふべきなり。」
故に人道は中庸を尊む。水車の中庸は、宜しきほどに水中に入りて、半分は水に順ひ、半分は流水に逆昇りて、運転滞らざるにあり。人の道もそのごとく、天理に順ひて種を蒔き、天理に逆らうて艸を取り、欲に随ひて家業を励み、欲を制して義務を思ふべきなり。」
『二宮尊徳全集』第36巻を底本とした。ただし、次の方針に基づき、本サイトの管理人が独自に修訂を施してある。◆漢文以外は、すべて横書きに改めた。◆旧字体は、新字体に改めた。◆仮名遣いは原則として旧仮名遣いのままとしたが、現代的な文語文法に基づき、適宜修正した。(例:飢へ→飢ゑ、全ふ→全う)◆送り仮名、句読点、括弧、改行は、現代的な感覚に即して大幅に改めた。(例:譬ば→譬へば、曰……→曰はく、「……。」) ◆振り仮名は、推測に基づき、適宜施した。◆助動詞および助詞は、仮名に開いた。(例:也→なり、如し→ごとし)◆「ゝ」や「〱」は原則として元の仮名に戻し、「〻」は削った。◆漢文には適宜訓点を補った。
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