『二宮翁夜話』第1巻 第4章
翁曰はく夫れ人道は人造なり…
原文
翁曰はく、「夫れ人道は人造なり。されば自然に行はるる処の天理とは格別なり。
天理とは、春は生じ、秋は枯れ、火は燥けるに付き、水は卑きに流る。昼夜運動して万古易はらざる、是なり。
人道は、日々夜々、人力を尽くし、保護して成る。故に天道の自然に任すれば、忽ちに廃れて行はれず。故に人道は、情欲の儘にする時は、立たざるなり。
譬へば、漫々たる海上、道なきがごときも、船道を定め、是によらざれば、岩にふるるなり。道路も同じく、己が思ふ儘にゆく時は突き当たり、言語も同じく、思ふままに言葉を発する時は、忽ち争ひを生ずるなり。
是に仍りて、人道は、欲を押さへ、情を制し、勤め勤めて成る物なり。夫れ美食美服を欲するは天性の自然。是をため、是を忍びて、家産の分内に随はしむ。身体の安逸、奢侈を願ふも又同じ。好む処の酒を控へ、安逸を戒め、欲する処の美食美服を押さへ、分限の内を省みて有余を生じ、他に譲り、向来に譲るべし。是を人道といふなり。」
天理とは、春は生じ、秋は枯れ、火は燥けるに付き、水は卑きに流る。昼夜運動して万古易はらざる、是なり。
人道は、日々夜々、人力を尽くし、保護して成る。故に天道の自然に任すれば、忽ちに廃れて行はれず。故に人道は、情欲の儘にする時は、立たざるなり。
譬へば、漫々たる海上、道なきがごときも、船道を定め、是によらざれば、岩にふるるなり。道路も同じく、己が思ふ儘にゆく時は突き当たり、言語も同じく、思ふままに言葉を発する時は、忽ち争ひを生ずるなり。
是に仍りて、人道は、欲を押さへ、情を制し、勤め勤めて成る物なり。夫れ美食美服を欲するは天性の自然。是をため、是を忍びて、家産の分内に随はしむ。身体の安逸、奢侈を願ふも又同じ。好む処の酒を控へ、安逸を戒め、欲する処の美食美服を押さへ、分限の内を省みて有余を生じ、他に譲り、向来に譲るべし。是を人道といふなり。」
『二宮尊徳全集』第36巻を底本とした。ただし、次の方針に基づき、本サイトの管理人が独自に修訂を施してある。◆漢文以外は、すべて横書きに改めた。◆旧字体は、新字体に改めた。◆仮名遣いは原則として旧仮名遣いのままとしたが、現代的な文語文法に基づき、適宜修正した。(例:飢へ→飢ゑ、全ふ→全う)◆送り仮名、句読点、括弧、改行は、現代的な感覚に即して大幅に改めた。(例:譬ば→譬へば、曰……→曰はく、「……。」) ◆振り仮名は、推測に基づき、適宜施した。◆助動詞および助詞は、仮名に開いた。(例:也→なり、如し→ごとし)◆「ゝ」や「〱」は原則として元の仮名に戻し、「〻」は削った。◆漢文には適宜訓点を補った。
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