『二宮翁夜話』第1巻 第34章
翁高野某を諭して曰はく…
原文
翁、高野某を諭して曰はく、「物、各命あり、数あり。猛火の近づくべからざるも、薪尽くれば火は随ひてきゆるなり。矢玉の勢ひ、あたる処、必ず破り、必ず殺すも、弓勢つき、薬力尽くれば、叢の間に落ちて人に拾はるるにいたる。人も其のごとし。おのれが勢ひ、世に行はるるとも、己が力と思ふべからず。親先祖より伝へ受けたる位禄の力と、拝命したる官職の威光とによるが故なり。夫れ先祖伝来の位禄の力か、官職の威光がなければ、いかなる人も弓勢の尽きたる矢、薬力の尽きたる鉄炮玉に異ならず。草間に落ちて人に愚弄さるるに至るべし。思はずばあるべからず。」
『二宮尊徳全集』第36巻を底本とした。ただし、次の方針に基づき、本サイトの管理人が独自に修訂を施してある。◆漢文以外は、すべて横書きに改めた。◆旧字体は、新字体に改めた。◆仮名遣いは原則として旧仮名遣いのままとしたが、現代的な文語文法に基づき、適宜修正した。(例:飢へ→飢ゑ、全ふ→全う)◆送り仮名、句読点、括弧、改行は、現代的な感覚に即して大幅に改めた。(例:譬ば→譬へば、曰……→曰はく、「……。」) ◆振り仮名は、推測に基づき、適宜施した。◆助動詞および助詞は、仮名に開いた。(例:也→なり、如し→ごとし)◆「ゝ」や「〱」は原則として元の仮名に戻し、「〻」は削った。◆漢文には適宜訓点を補った。
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