『二宮翁夜話』第1巻 第35章
同氏は相馬領内衆抽んでて…
原文
同氏[1]は相馬領内、衆に抽んでて仕法発業を懇願せし人なり。仍りて同氏預かりの成田、坪田二村に開業なり。仕法を行ふ、僅かに一年にして、分度外の米、四百拾俵を産出せり。同氏、蔵を建て、収め貯へ、凶歳の備へにせんとす。
翁曰はく、「村里の興復を謀る者は、米金を蔵に収むるを尊まず。此の米金を村里の為に遣ひ払ふを以て専務とするなり。此の遣ひ方の巧拙に依りて興復に遅速を生ず。尤も大切なり。凶荒予備は、仕法成就の時の事なり。今、卿[2]が預かりの村里の仕法、昨年発業なり。是より一村興復、永世安穏の規模を立つべきなり。『先づ是こそ此の村に取りて急務の事業なれ』と云ふ事を能く能く協議して、開拓なり、道路、橋梁なり、窮民撫育なり、尤も務むべきの急を先にし、又、村里のために、利益多き事に着手し、害ある事を除くの方法に遣ひ払ふべし。急務の事、皆すまば、山林を仕立つるもよろし。土性転換もよろし。非常飢疫の予備、尤もよろし。卿等[3]、能く能く思考すべし。」
翁曰はく、「村里の興復を謀る者は、米金を蔵に収むるを尊まず。此の米金を村里の為に遣ひ払ふを以て専務とするなり。此の遣ひ方の巧拙に依りて興復に遅速を生ず。尤も大切なり。凶荒予備は、仕法成就の時の事なり。今、卿[2]が預かりの村里の仕法、昨年発業なり。是より一村興復、永世安穏の規模を立つべきなり。『先づ是こそ此の村に取りて急務の事業なれ』と云ふ事を能く能く協議して、開拓なり、道路、橋梁なり、窮民撫育なり、尤も務むべきの急を先にし、又、村里のために、利益多き事に着手し、害ある事を除くの方法に遣ひ払ふべし。急務の事、皆すまば、山林を仕立つるもよろし。土性転換もよろし。非常飢疫の予備、尤もよろし。卿等[3]、能く能く思考すべし。」
[1]
前章に登場した高野某のこと。
[2]
「卿」は二人称。
[3]
「卿等」は複数二人称。
『二宮尊徳全集』第36巻を底本とした。ただし、次の方針に基づき、本サイトの管理人が独自に修訂を施してある。◆漢文以外は、すべて横書きに改めた。◆旧字体は、新字体に改めた。◆仮名遣いは原則として旧仮名遣いのままとしたが、現代的な文語文法に基づき、適宜修正した。(例:飢へ→飢ゑ、全ふ→全う)◆送り仮名、句読点、括弧、改行は、現代的な感覚に即して大幅に改めた。(例:譬ば→譬へば、曰……→曰はく、「……。」) ◆振り仮名は、推測に基づき、適宜施した。◆助動詞および助詞は、仮名に開いた。(例:也→なり、如し→ごとし)◆「ゝ」や「〱」は原則として元の仮名に戻し、「〻」は削った。◆漢文には適宜訓点を補った。
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